ですが病院勤務歴3年、私は挫折しました。ある患者さんとの出会いと別れがきっかけです。
その患者さんはTさん。私が入職当時から担当した患者さんです。入院後も圧迫骨折後の腰痛で毎月1~2回程度通院してくれていた背の高い70代のおじいちゃんです。毎回めんどくさそうにリハビリ室に来ては、文句を言って帰っていく患者さんです。Tさんがある日「苦しい…リハビリをしたくない」と言いました。またいつものめんどくさいから言っているんだろうと思っていましたが、あまりに苦しそうなので、医師にお願いして検査してもらったところ、「肺がんの末期」で余命1ヶ月と宣告されました。
考えると、半年前くらいから苦しい苦しいと言っていました。そんな患者さんにバタバタ治療して、ちゃんと向き合わず、治療を流していたのです。治療もそこそこできるようになり、部下もでき、浮かれていたんだと思います。 そこから容体は一気に悪化し、呼吸器が入り、たった1ヶ月で、全身は固まり、息するのがやっとの状態で、うなづくしかできなくなったTさんがいきました。
助けられなかった自分への罪悪感と劣等感で申し訳ない気持ちでいっぱいでした。そして最後の日、リハビリで部屋を訪れると、Tさんが私を見て何かを伝えようとしてくれています。「もう最後かも…」と私はうすうす気付きながら、口元に耳を寄せると、一言かすれる声で「いつも…いつも…言おうと思ってたけど…ありがとう」と言ってくれました。
その時初めて患者さんの前で泣きました。涙を止めれなかったです。悔しくて、悔しくて泣き崩れたことは今でも昨日のことのように思い出します。
翌日朝、Tさんは亡くなりました。何もできなかった自分へかけてくれた「ありがとう」の価値は私には計り知れません。あと何回呼吸できるか、何回言葉を出せたか、そんなことも分からない中で自分へ言ってくれたこの感謝の言葉が今の私の心の中に生きています。